日本の中医針灸学を考える ~何故中医鍼灸を選んだか~|松山市の鍼灸院|半身不随、うつ病、がん、不妊症

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日本の中医針灸学を考える ~何故中医鍼灸を選んだか~

掲載原稿一覧 2015年07月01日

掲載雑誌:TAO鍼灸療法11号

今、鍼灸をとりまく環境は変革のときを迎えています。教育・臨床あらゆる方面でその向かうべき方向を模索しているときです。
TAOの中でも中医学の育て方の対談がされていました。その対談の中で針灸を客観的にとらえる必要があるということが問われていました。私が臨床の中で最も重要と考えていたことでもあります。日本の鍼灸に疑問を感じていた点でもあります。このことが私が中医学に進むこととなった理由でもあります。
今までの日本伝統鍼灸学会では、診断→ツボの取穴→補瀉など各段階の重要な部分の判断基準は最も主観的な脈による判断によるということで理解去れ難い原因吐なっています。
しかし、『素問・陰陽応象大論』にも書かれているように「よく診るものは、色を察し、脉を按じ、まず陰陽を別つ」と書かれています。ここでもわかるように、重要なことは陰陽を別つことであり、脈は一つの判断基準でしかないのです。
中医学でももちろん脉診は重要な基準の一つではありますが。四診法の一つでしかないのです。より多くの情報を集め、判断することが誤治を避ける上でも大切です。鍼灸学は学問です。理論的な解釈が必要です。学問としてのしっかりとした討論をしていく必要があります。もっと見えるところで色々な討論の場をもつことが鍼灸界の発展に最も必要なことと考えます。
私達の研究会は地方の研究会です。都会と比べ情報に乏しく、刺激を受ける機会もほとんどありません。四国は日本伝統鍼灸の盛んなところでもあります。このような環境の中で研究会を運営することは実はそれなりに大変です。
これからは全国の中医学の研究会と交流を深め、都会に行かなくても充実した勉強ができる場を作っていきたいと思っています。皆様のご協力をお願いします。

今回、日本の鍼灸と中医学という観点から、(1)中医学の日本における発展の問題点、(2)日本鍼灸が中医学から学ぶべき点(3)中国と日本の鍼灸全般から見た違いについて私が感じることを率直に述べたいと思います。

(1)日本における中医学発展の問題点

日本では中医針灸治療というと、今でも特殊な治療のように考える鍼灸師がたくさんいます。また、中医針灸治療を否定する人もたくさんいます。
その証拠に『私は中医師だ』といっている人でも中医理論を臨床に忠実に実践している臨床家はほんの一握りです。真の中医理論が理解されないままに、時代の流行に合わせて中医学という言葉だけが使われているようです。
中医針灸治療を志す者として大変寂しく思います。この原因について少し考えてみたいと思います。主に三つに概括して述べます。

一つには、中医学という言葉が良く使われるようになってからの年数の短さにあります。
日本で中医学という言葉を私の周りでよく聞くようになったのはほんの10年ほど前からです。それ以前にも針麻酔が注目され、それに合わせて中医学も紹介されました。針麻酔については上海中医学院で作られたもので伝統的な中医学理論に基づいたものではありません。そして、中医学理論は一般鍼灸師が導入するまでには至りませんでした。
最近では書店で東洋医学の書棚を見ると中医学の本の占める割合が従来の日本の漢方医学を遥かに超えその本の多さにはビックリさせられます。この時代の変化に比べ鍼灸師の意識の変化は大変遅れています。10年という短い年数を考えれば中医学の正しい良さが理解されないのも仕方がないことかもしれません。
中医学は中国で現在に至るまでに長い間の経験と思考を繰り返し現在の中医学が確立されました。数千年といわれる時間が今の中国に中医学を根付かせたのです。
日本でも中医学が根付くにはある程度の年数が必要なのかもしれません。

二つには、今まで臨床に使っていた東洋医学の鍼灸学基礎理論と中医学基礎理論との違いにあります。
今まで使っていた理論から新たな理論への変換は大変なことです。ベテランの先生であればあるほど難しいと思います。臨床の中でどのように解釈し、今までの自分の治療との相互性をはかり、また新たな勉強をしなければならないのです。大変勇気と時間を要することと思います。
これから中医学を始めようとしている人は、とりあえず既存の理論を横においてください。白紙の状態から始めることが真の中医学を理解する最も早道と考えます。

三つには、現在中国で行われている治療法をそのまま日本で使うことができにくいことにあると思います。
日本の鍼灸師は、中医針灸治療を太い針・長い針を用いて強い刺激により行う治療法だと理解していると思います。このことは日本の鍼灸治療と比べれば正しいことかもしれません。
しかし、あくまでも日本の鍼灸治療との比較による考えです。それだけで中医学を否定するのはあまりにも短絡的です。今、世界では鍼灸といえば中医学理論が主流となっています。日本の常識は世界の常識ではないのです。

上記の3点が日本での中医学を志す人が少ない主な原因と考えられます。
もちろんその他色々な原因があります。しかし、中医学は経験に基づいた実践医学です。そのすばらしさは時代が証明しています。良い者ものは長く受け継がれさらに発展しこれからもまた後世に受け継がれていくことでしょう。
その良さをもっと広く啓蒙し日本の鍼灸に活かしていくことが、我々中医学を志す者の義務と思います。

日本の鍼灸が中医学から学ぶ点

日本の鍼灸学における中医学の果たすべき役割は多方面にわたりその意義は大変大きいと思います。私なりに日本の針灸学が中医学から学ぶべき点について述べたいと思います。

 ①診断に客観性を!

今までの日本の東洋医学の最大の弱点は診断において客観性に欠けるところです。どうしてこのような診断をしたのか。また、治療を行うのか。診断における根拠が曖昧で客観性に欠けるのです。それが医療としての確固たる地位が築けなかった原因の一つでもあると思います。
それも最初は神秘的ということでもてはやされるかもしれません。しかし、最後に残るものはしっかりした基礎理論の上に成り立った客観性に富んだ診断による治療だと思います。
中医学理論は、その客観性を兼ね備えた最も合理的な理論と思います。鍼灸学は中国を起源としています。その中国で受け継がれ発展した中医学理論は最も基本となるべきものと考えます。
今まで中医学理論が日本の鍼灸師一般に認められなかったのが不思議なぐらいです。

 ②基礎用語の統一を!

今の鍼灸師は以前学校で習った曖昧な東洋医学の基礎用語や日本の大家といわれる先生達か自分で作った理論や用語に雁字搦めにされています。
同じ針灸師でありながら基本的な基礎用語の意味が曖昧であるために、臨床について討論することも難しい状態です。もともと中医学の中で使われている理論や基礎用語があるのに、新たな用語を作ったり、一部分だけを引用したりしています。もしかすると中医学の基礎用語として使われていることを知らなかったのかもしれません。
しかし、日本の鍼灸に新たな問題を作り、惑わせることになったことには違いありません。たとえ理論は違ってもおなぢ用語を使うからにはせめて用語の意味は同じであるべきです。お互いの理論を理解する上でも大変重要なことです。
鍼灸は同じ中国の古典を起源としているのですから、基礎用語の統一はできないはずはありません。この問題について中医学はこれからの鍼灸治療の基準となる最も優れた理論ではないでしょうか。せめて基礎用語ぐらいは統一をはかるべきです。
この統一こそが最も重要な日本の鍼灸発展のキーポイントと考えます。

 ③鍼灸に哲学思想を!

診断・治療には何らかの基礎となるものが必要です。
中医針灸学では、①哲学思想基礎…「陰陽学説」と「五行学説」、②形体機能学基礎…「臓腑経絡学説」と「気血津液学説」、③病因病機学基礎…「病因」と「病機」、④診断学基礎…「四診」と「弁証論治」、⑤治療学基礎…「針法」と「灸法総則」です。これらは中医針灸学の基礎学です。これらすべてが関連し合い一つの中医針灸学基礎を作り上げているのです。

その基礎理論の根底をなすものが基礎理論の一つでもある哲学思想基礎の陰陽学説です。日本の東洋医学(鍼灸)もこの陰陽学説を哲学思想として東洋医学の根源として位置付けています。
しかし、現在の臨床を見る限りその重要度は軽視されています。また、陰陽五行学説は理解されているものとして講義などではさっと流されたり、そのような言葉すら出てこないような傾向にあります。

これは日本の中医学においても同じことがいえると思います。日本でも中国でも根源として考えられているはずの陰陽学説が、実際には軽視され実践にすぐ使えるような各論的なものだけが重要視されています。
日本の東洋医学と中医学の陰陽学説の内容には多少の違いがありますが、ここでいいたいことは、内容の違いは別にして、その根源となるべき哲学思想の理解なしには日本の東洋医学も中医学も同様に真の理解はできないのです。臨床においてこそその重要度は増すと考えます。

『私の治療は中医学治療だ』といっている人にも、色々な考えの人がいます。ましてや鍼灸治療となればその治療は多種多様です。多種多様な治療の寄せ集めです。臨床効果があがらす悩んだ末に多種多様な治療を導入したのかもしれません。治療の目的は病機を治すことです。治療効果が一番大切なことはもちろんです。
しかし、治療には基準となる原理原則が必要です。言いかえれば自分の治療に対する信念が必要なのです。多種多様な治療を上手に使い分けることのできるのもすばらしいこととは思いますが、多種多様な治療法についてもそれぞれの哲学思想の上に成り立っているのです。このような臨機応変な考え方は日本人の特性だと思います。
経済についても諸外国の良いところだけを取って真似ることで今までの日本が発展してきました。鍼灸治療においても同じなのではないでしょうか。すべてを否定しているのではありません。ただ、技術と思想は一対のものとして考えるべきだということです。

日本の東洋医学(鍼灸)も頑固なまでに伝統を守り大切にする中国の中医学に対する姿勢を見習うべきだと思います。

 (3)中国と日本の鍼灸全般から見た違い

私は中国で留学する中で日本と中国の鍼灸を取り巻く環境の違いを身をもって体験しました。また、伝統を重んじて頑に臨床に取り組んでいる先生にも会いました。その中で、特に注目すべき点を概括して述べたいと思います。

一つには、鍼灸治療の医療としての信頼度の違いです。。

現在、日本で行われている治療は、「痛くない・安全・簡単」ということを重視して、最も重要な治療効果につながる治療原則は二の次と取られるような状態が見られます。これは鍼灸治療に対する社会的な地位の違いが最も大きな原因と思います。
中国では中医学は西洋医学と同等に病院で行われています。保険の対象であり、鍼灸師も西洋医師と同じ医師なのです。
患者が中医治療(鍼灸・中薬など)受けるのか、西洋治療を受けるのかは患者自身が選択します。そのため、中国の鍼灸科には日本の鍼灸院では考えられないような色々な病気の患者が来院します。
その結果、鍼灸界では色々な研究が行われ、その上に新たな発展があるのです。羨ましい限りです。
中国では針灸治療は信頼され、自分の正しいと思う治療を全うできる環境にあるのです。

二つには日本ではよく中国の古典を勉強します。それは鍼灸学の基礎となる理論のバイブルであるからです。

しかし、日本で紹介されている本は中国のほんの一部分でしかありません。私が留学して驚いた事は、中国の中医学に関する本の多さです。日本ではほとんど知られていない本ばかりです。
古典と呼ばれる本がどの時代以前のものを指すのかその定義については定かではありませんが、日本では、漢代の『傷寒論』・『金匱要略』以前のものだけが重要視されています。それ以降のもので一般的に知られているものは、隋代の『諸病源候論』・唐代の『千金要方』・金代の『脾胃論』・元代の『難経本義』ぐらいです。漢代以降の本は黄帝内経の解釈本のような本が多いのですが、その解釈こそが臨床には大変参考になるものなのです。
鍼灸に関して言えば、中国で元明二代の『針灸大成』を知らない鍼灸師はいません。日本では、この本を読んだことのない鍼灸師がほとんどだと思います。書籍についても日本では中途半端な導入の仕方がされています。

現在は、中国の学校で使っている教材やその他現代の注目されている本などが出版されているおかげで、正しく中医学理論が日本にも浸透してきているように思います。
このTAO鍼灸療法でも上海中医学院で編集された『針灸学釈難』の解説がされています。この本は大変すばらしい本です。この本を読めばわかるようにその内容の充実と理論的な解釈には大変勉強になります。
古典は中国のものですから、その研究はもちろん日本とは比較にならないほど行われています。中国で出版されているどの本も古代哲学思想を反映してない本はほとんどありません。頑にその伝統を守っているのです。中医学に関する伝統的な教育が徹底されているのです。国家の頑固な姿勢の上に中医学は成り立っているのです。

三つには、臨床における補瀉に対する姿勢です。

鍼灸治療は補瀉なしには語ることのできないものとして考えられてきました。現在の中国の教材にはある程度系統的にその理論は確定されています。その中国でも補瀉手技となると大変曖昧な点が多いです。しかし、自分なりに解釈をし、臨床の中で行われています。
日本では、補瀉手技を考えて鍼を刺している人がどのくらいいるでしょうか。鍼灸の原点に返り、補瀉手技についても客観性を求める必要があります。
このことは、これからの永遠のテーマとして鍼灸界が問題意識をもち、もっと取り上げていく必要があります。

四つにはツボの定義と取穴方法です。

中国では取穴の際に触診(切経)をしません。私は反応点をを探り取穴を行います。そして、一般的に前揉をしてから針を刺します。
南陽市の李世珍先生の所で勉強しているとき、この習慣を先生はとてもいやがりました。ツボの概念が日本とは違うのです。阿是穴はもちろん反応点を取るのですが、処方穴は穴位に忠実に取るのです。前揉や後揉はほとんどしません。このことは中国のどの地方でも同じでした。
私は日本の方法の方が優れているように思うのですが皆さんはどのように考えますか。

ことこで取り挙げたことは抽象的なことが多く、もっと詳しい説明が必要と思いますが、これらの中国の現状については、自分の目で判断することをお勧めします。
その際には、何事についても簡単に判断しないで下さい。日本の留学生や研修に来ている人は一つの治療や治療の上っ面だけを見て簡単に中医学を論じているようです。そして、『この治療は日本では使えない』といって帰る人がたくさんいました。この勉強の姿勢には日本人である私でさえ大変恥ずかしく思いました。
中国は広いです。何ヶ所かに行き、色々な先生の考え方や治療法を見ることをお勧めします。
最後になりますが、私は鍼灸師は臨床家の学者であるべきだと思います。これからの鍼灸師はますます専門性が問われてくると思います。臨床の中で常に原点に戻り原理原則に従った客観的な治療を全うすることは大変なことです。そのためにも鍼灸を学問としてとらえる学者てあるべきなのです。これからの鍼灸師は臨床家の学者であるべきなのです。

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