東洋医学健康セミナー「家庭でできるツボ療法」 (松山市雄郡公民館) 演題:介護予防の時代
講演会・ボランティア活動 2017年07月12日
東洋医学健康セミナー「家庭でできるツボ療法」 (松山市雄郡公民館) 演題:介護予防の時代
介護予防運動指導員養成講座 東京都健康長寿医療センター研究所
地域包括ケアシステム
いま、高齢者の約25%が一人では生活が困難な要介護状態だといわれています。そのような中で、医療や介護、その他の専門職、さらには地域住民の協力もお願いして、住み慣れた自宅や地域で暮らせるような協力体制を作ろうというものです。
私たち鍼灸師も何らかの形でこのシステムの中で介護予防に貢献できればと思っています。このシステムでは、残念なことではありますが、重度な要介護状態になっても住み慣れた自宅や地域で、5項目、医療、介護、介護予防、生活支援、住まいの問題を包括的に考えて、みんなで援助していこうという取り組みです。
この五つのどれが欠けても困りますよね。これを効率よく行えるようにしようというものです。大枠はできているのですが、正にいまこのシステムが作られているところです。
鍼灸師の役割
しかし、この状態に対しては西洋医学では、病気ではないので治療が困難となります。この老年症候群に対して鍼灸の未病治療の考え方は、援助的治療と同じ考え方であり、私たちがお役に立てるのではないかと考えています。
この老年症候群に対しては、体力、ここで言う体力とは、筋力・バランス力・歩行速度の三つを向上させることが有効な対策とされています。
そこでどのように体力を維持増進していくかということが問題となります。鍼灸をして循環を改善したり、痛みを取ることで体力の改善に効果はありますが、やはり運動しなければ根本的な体力の維持増進が図れないということです。
そこで今回私も介護予防の専門家となるための介護予防運動指導員の資格を取りました。このような取り組みにより、私たち鍼灸師は「医療と介護予防」の二つの面から地域社会に貢献できるものと考えています。
虚弱からフレイルへ
いまフレイルという言葉が使われるようになってきています。虚弱は英語でフレイルティといいますが、そのフレイルを取った言葉です。
様々な研究の中で、虚弱の予防/改善にむけては、運動、栄養、社会面の三つを包含する複合的なアプローチがより効果的である事がわかりました。
ただし、虚弱になっていく過程では、歩く力に関連する体力を維持増進することが介護予防の取り組ムベキことであり、これが虚弱対策の根幹であると長寿医療センター研究所の新海先生は述べています。
フレイルの予防と対策
フレイルは70歳以上地域高齢者の2割から3割にみられると言われています。介護予防を進める上でフレイルに着目し、これを予防または改善することは極めて重要です。
フレイルの共通する原因としては、①体力が低い、②低栄養傾向、③閉じこもり傾向、④抑うつ傾向、⑤高血圧の既往、⑥喫煙習慣6つが挙げられています。この6つが対策のターゲットとなります。
特にフレイル高齢者では体力が落ちており、やはり、歩く力に関連した体力の低下を防ぐあるいは低下を先送りすることが極めて大切であると考えられています。
要介護予防のための 体力向上運動(筋力アップ運動)
体力を筋力、バランス力、歩行速度の三つからとらえて、改善していこうというものです。
介護予防では、高齢者に適した運動でなければなりません。激しい運動や負荷の思い運動は行えません。かえってマイナスとなりかねません。
ここで紹介する運動は、高齢者向けに開発されたものであり、安全性や運動の効果が科学的に明らかとなっている実戦で証明されているトレーニング方法です。
筋力アップ運動の注意事項
①呼吸では、数を数えながら行うことで、普通の呼吸となり、血圧が急激に上がることはありません。
②姿勢では、無理のない良い姿勢で行うことでターゲットにする筋肉の運動効果が上がります。また、無理な力は入れず身体の捻れ・傾きに注意してください。
③リズムでは、ゆっくりと動かすことでより運動効果が上がります。ゆっくりと、1・2・3・4で動かし2秒静止して1・2・3・4で戻します。復路のテンポが早くなりがちですので注意してください。また、全体の動きをスムースに行う(カウントに合わせない事も大切です。
④負荷では、ややきつい運動(回数・負荷)が有効です。最大筋力の60~80%で行いましょう。
⑤意識では、強くしたい筋肉を意識しながら運動して、動く筋肉の場所、動き方などを学習するとより効果的となります。
①もも上げ運動
足がしっかりと上がるようになり大股(歩幅広く)で安定した歩行が可能となり、段差を楽に越せるようになる。
骨盤の位置(姿勢)が改善され腰痛の予防・改善に効果が期待できる。
運動方法
良い姿勢を保つたまま、太ももを10~20cm真上に上げる。
ターゲットにする筋肉
腸腰筋…股関節と背骨、骨盤をつないでいる筋肉。太ももを高く上げるときに使う筋肉。
②肩甲骨引き寄せ運動(ローイング)
運動効果
円背(猫背)が改善され姿勢が良くなり前後への転倒予防効果がある。
円背が進むと上半身重心が後方へ移動しやすく、これに伴い体幹、下肢への影響(腰痛・変形性膝関節症など)が出やすい。
胸が開き呼吸が楽になる。肩こりの改善が期待できる。
運動方法
良い姿勢を保ったまま肘を伸ばした状態で腕も前にあげる。
左右の肩甲骨を中央に引き寄せる意識を持って肘から後ろに腕を引く。
ターゲットにする筋肉
菱形筋…肩甲骨と背骨の間にある筋肉。その他の筋肉として広背筋、僧帽筋、脊柱起立筋などを意識。
③片足膝伸ばし (レッグエクステンション)
運動効果
膝がしっかりと伸びるので歩幅が広がり歩行が安定し歩行速度が上がる。
膝関節の痛みの予防・改善に期待ができる。
運動方法
良い姿勢を保ったまま、つま先を上にあげ、踵を前に押し出す感じで膝を伸ばす。
ポイント
膝関節は完全伸展すること。(痛みのある場合は無理をしない)
この筋は完全伸展する10~20度手前から機能することを意識する。
ターゲットにする筋肉
大腿内側広筋・大腿外側広筋…太ももの内側と外側にある筋肉。膝関節を伸ばす時に使う筋肉。
④片足の横上げ (ヒップアブダクション)
運動効果
骨盤が安定して横へのふらつきが抑えられ安定した歩行が可能。左右への転倒を予防する。
運動方法
両足を肩幅に開き、つま先と膝を同じ向きに向ける。
片足に重心を移し、バランスが取れたらもう片方の足を横に上げる。
つま先は前に向けたまま(横に向けない)で足を横に上げる。
足は高く上げなくても良い。
ポイント
中殿筋の機能低下はトレンデレンブルグ歩行を引き起こす。これに合わせて、足関節底屈筋の機能低下が加わると立脚時の体幹側方動揺が助長され、膝の内反(o脚)が強まる。
※トレンデレンブルグ歩行…歩行の片足支持期に骨盤が傾く。
ターゲットにする筋肉
中殿筋…お尻の横にある筋肉。片脚立時にバランスを保ち、脚を外側に広げる時に使う筋肉。
⑤スクワット
運動効果
足全体の筋肉が強くなり、立ち座り、歩行など日常生活での様々な動きが改善する。
階段の昇降が楽になる。
身体が前方に倒れるのを予防する(ストッピング)。
運動方法
お尻から椅子に座る感じで腰を後に引きながら下ろす。
下ろす時に膝がつま先より前に出ないようにする。
ポイント
屈伸運動は膝を完全に屈曲しなくてもよい。(1/4程度でよい)
下肢の3関節(股関節・膝関節・足関節)を協調させて行う。
ターゲットにする筋肉
大腿四頭筋…太もも前面の筋肉。膝を伸ばす時(歩く、しゃがむ、走る、蹴るなど)に使う筋肉。
中医鍼灸 越智東洋はり院