鍼灸治療とカウンセリング 「疾患(disease)と病い(illness) 当院のコンセプト
精神・心療内科系 2020年02月03日
新年を迎え、改めて当院が推奨しているカウンセラー鍼灸の基本理念を少し紹介したい。
その原典は、疾患(disease)と病い(illness)の考え方の違いにあります。この考え方が正に当院の鍼灸治療の特徴であり、病気をどのようにとらえて治療していくのかという治療方針につながり、現在の治療理念となっています。
また、EBMとNBMという二つの大きな医療の方向性があります。これらもまた当院が目指す治療のキーワードとなりました。そこには化学化と経験という大きな二つのテーマがあります。両者をいかに統合するのか。そこから患者中心の医療、鍼灸治療の目指すところは何かという私なりの考え方が生まれ、そしてそれらの考えが当院のコンセプトとなっています。
それらについてご紹介できればと思います。
「疾患」と「病い」の違いについて
では、「疾患」と「病い」の違いについて考えてみましょう。
医療人類学の世界的権威であるクラインマン(Arthur Kleinman,1988/1996)によると、疾患(disease)は医学的枠組みによって捉えられた病気、治療者の視点から見た問題であり、病い(illness)とは人がその病気を生きる経験、患うことの経験である。先に述べた病気の現実と揺れ動く気持ちのギャップは、この疾患と病いの間、隔たりと考えられるのではないだろうか。クラインマンは、慢性の病いにおいては、病いをその人の生活史・人生から切り離すことはできないとし、病いの語りを聴くことの重要性を提唱している。
当院が推奨するカウンセラー鍼灸の原典はここにあります。
病い(illness)と「EBM・NBM」について
近年、医療はEBM(Evidence-based Medicine エビデンス・ベイスト・メディスン 根拠に基づいた医療)という新しい診療理念が重視されるようになってきました。これまで行われてきた診療は、医師が有する医学的知識と経験的技術に基づいたものであり、医師個人の経験や勘にだけにたよる「独りよがりな医療」に陥る危険がありました。極端なことをいえば、同じ病院、同じ診療科であっても担当医によって診療パターンが異なることも珍しいことではなかったといわれています。
しかし、このEBMも全ての患者に有効であるわけではありません。その有効率は60~90%とされ、有効でない患者が40%~10%も存在することになります。また、根拠になるデータが十分そろっていない疾患、治療が困難な疾患、高齢者のケア、死に至る病気、あるいは精神に関わる病気などEBMを適用できない場合も多くあるといわれています。そのために、EBMで有効とされる医療技術を患者に応用するか否かは、患者の病状や副作用を考慮し、患者の価値観や意向を取り入れ、医師の経験を活かして決めることが望ましいとされているのです。
当院の鍼灸治療はそのようなEBMの対象となりにくい患者様に対して推奨したい治療と言えます。
NBM(Narrative-based Medicine ナラティブ・ベイスト・メディスン 物語に基づいた医療)の創立
こうした考え方から、EBMを実践してきた英国の開業医から提唱されたのがNBM(Narrative-based Medicine ナラティブ・ベイスト・メディスン 物語に基づいた医療)です。「ナラティブ」は「物語」と訳され、患者が対話を通じて語る病気になった理由や経緯、病気についていまどのように考えているかなどの「物語」から,医師は病気の背景や人間関係を理解し、患者の抱えている問題に対して全人的(身体的、精神・心理的、社会的)にアプローチしていこうとする臨床手法です。
NBMは患者との対話と信頼関係を重視し、サイエンスとしての医学と人間同士の触れあいのギャップを埋めるものとして期待されていますが、これを実践することは今の医療システムの中では難しいだろうと考えられます。
サイエンスとしての医学を支えるのは客観的なデータです。最近は医療機械や検査が次々と開発されて、医師も患者もそれに頼るあまり、両者の対話やスキンシップの場としての診察が軽視されがちであるといわれています。その結果、患者はいきなり検査を希望しますし、屋号に検査法の名称を使っているような病院も見られるようになってきました。
医師は検査に異常がなければ病気とは考えません。そして患者の悩みや苦しみは癒されないことになります。
このNBMを重視しているのが当院の鍼灸治療です。
NBMの立場からは、従来の問診と身体診察の重要性を再認識する必要性を私たちに示しています。
EBMとNBMは対立するものではない。むしろ、互いに補完するものといえます。ちなみに、日野原重明先生は「医学というのは、知識とバイオテクノロジーを、固有の価値観を持った患者一人ひとりに如何に適切に適応するかということである。ピアノのタッチにも似た繊細なタッチが求められる。知と技をいかに患者にタッチするかという適応の技と態度がアートである。その意味で医師には人間性とか感性が求められる。」と述べておられる。まさにEBMとNBMはサイエンスとアートの両輪として、真に患者の満足度が高い“患者中心の医療”には不可欠のものといえます。
「ケアをする側にとって大切なことは人生の物語に立ち合い、その解釈が正しいことを認め、その価値を支持すること」であるという。まさに心理臨床の営みそのものである。これは、疾患に対する適切な治療という生物医学的なアプローチがあった上での営みであり、両者のバランスが必要であるといえます。
鍼灸治療は患者中心のオーダーメイドの治療
鍼灸治療は、およそ三千年にも及ぶ経験の積み重ねから生まれた医学です。経験の語りを進歩発展させてきた医学です。
そのように考えますと、私たち鍼灸師は患者様の語りや経験を最も重視しなければなりません。患者様の語りや経験に真摯に耳を傾けて、患者様とともに後世にこの経験を語り継いでいかなければならない義務を負っているのです
私はそのような患者中心の医療を提供できるよう臨床心理の勉強を始めました。今も放送大学の学生で、常に新しい情報を得るべく、健康に関する新しい科目が始まるとそれを受講しています。
しかし、患者様を理解することは簡単なことではありません。様々な症状を訴えます。一人として同じ症状の方はいません。環境も違えば、体質も異なります。できる限り理解しようと努めているというのが正直な現状ではないかと思います。
そのようなコンセプトのもと中医鍼灸 越智東洋はり院は患者様の治療に向き合うよう常に努力を続けています。
中医鍼灸 越智東洋はり院