(公社)愛媛県鍼灸師会青年ぶ主催の研修会に参加しました(がんと鍼灸治療)|松山市の鍼灸院|半身不随、うつ病、がん、不妊症

中医鍼灸 越智東洋はり院

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がん

(公社)愛媛県鍼灸師会青年ぶ主催の研修会に参加しました(がんと鍼灸治療)

がん 2018年11月21日

去る11月18日(日)に開催された(公社)愛媛県鍼灸師会青年ぶ主催の研修会に参加しました。
講師に山下仁先生(森ノ宮医療大学 教授)をお招きし、午前は「鍼灸に影響を与える診療ガイドラインの重要性」、午後は「がん患者の緩和ケアにおける鍼灸の応用可能性」という内容でした。

 

当院では、がん患者に対する鍼灸治療を特殊治療として専門的に行っています。
今回の研修会では、最新のがん治療の状況や安全性についてお聞きしたいということで参加いたしました。

 

最近の中では、参加してよかったと思えた大変充実した内容の講演会でした。
その中で、ぜひ患者様にも知っていただきたいと思えた内容をまとめました。

 

まず、現在、がん患者に対するケアのエビデンスは十分とは言えない、ということから講義は始まりました。
「がん治療においては、慢性疼痛とか、腰痛、頭痛などのように自信をもって推奨することはできにくい。がんを治そうと言っているのではなく、がんで苦しんでいる或いは抗がん剤で苦しんでいる患者さんには鍼灸治療は使えるということがわかっている。特に海外では注目されていることがわかっています。」と、

 

①がんの治療ではなく、がん患者の治療であること。
②欧米では日本よりも積極的にがん患者に対して鍼灸治療が行われていること。
③鍼灸治療の診療ガイドライン・安全性について。

 

主にこの3つの事について詳細なお話がありました。
下記にその内容をご紹介します。

 

①がんの治療ではなく、がん患者の治療である。
下記に先生がまとめた「がん患者に対する鍼灸治療の目的」を見ていただきたい。
以前、当院のホームページで示した目的とは異なる部分が多くみられる。

 

●がん患者に対する鍼灸治療の目的
①がんおよびその他の病態による痛みの緩和
②がん治療の副作用の緩和
③長期臥床などによる筋骨格系の痛みや不快感の緩和
④その他の心身の諸症状の緩和
(肩こり、不眠、不安、食欲不振、便秘、しびれ 等)
⑤施術中の心地よさ
⑥(当初から意図していたものではないが結果的に、鍼施術よりも対話や傾聴による苦痛の緩和)
※がん自体に対するアプローチの臨床的意義を主張する論文もあるが、エビデンスは十分に示されてはいない

 

例えば、大腸がんなどでは手術後からの激しい腰痛が見られる、一つは手術で内臓などを切ったことによる関連痛や長く寝ていることによる、長期臥床による腰痛である。この腰痛は睡眠障害等を引起し患者にとって大きな問題となる。
この痛みを緩和することは患者さんにとって大変重要なことで、生活の質そのものに関わってきます。
がんそのものが引き起こす痛みに対する緩和もありますが、良い薬も出てきており、当然そちらの方がよいということもある。
意識がしっかりしており、そのような状況での痛みを緩和してほしいという場合は鍼治療も選択肢となるかと思う。
一方で、がんそのものによる痛みではなく、長期臥床による肩こりや腰痛に対しては患者さんに大いに貢献できる。
ここが鍼灸が最も貢献できるところではないかと思う。
④のその他の心身の諸上擾の緩和では、不眠、不安、食欲不振、便秘などですが、特に食欲不振、便秘は効く人には驚くような効果がある。
※①③④に対する説明

 

また、抗がん剤の嘔気嘔吐等については、確かなエビデンスがあります。
しかし、現在ではよい薬が開発され皆が副作用が出るということではない。
西洋医学も進歩しており、私たち鍼灸師も患者さんが何に困っているのか、そのことに敏感に対応できるよう努力していかなければならない。常に新しい治療を考えていかなければならない。
※②の説明

 

⑤は、鍼治療がもつ特殊性から生まれるもので、患者さんを触ることによる心地よさがある。
⑥は鍼灸治療は患者さんと向き合いお話を傾聴しながら行うので、それらの行為が疼痛の緩和等の効果を発揮するのではないだろうか。
※⑤と⑥の説明

 

がん患者に対する鍼灸の目的として先生は上記の六つの項目を挙げている。
この中にはがんそのものを治すということは書いていない。
せんせいは、そのことについて次のように説明しました。

 

「がんそのものを治すということをいう人もいますが、そのことを否定するわけではない。ここに載せていないのはエビデンス(根拠)がないからです。もしかするとそういうことがあるかもしれないし、ないかもしれない。証拠がないのでここでは取り上げてはいない。がんに対するではなく、がん患者に対するということで、鍼施術にどういう意味があるのかということを取り上げている。」

 

このことは重要なことで、患者さんに過大な効果をアピールすることは信頼を落とす結果となることもあります。
治療家は科学的なエビデンスをもとに正直に患者さんに向き合うという姿勢が大切であると私も考えています。

 

また、私は鍼灸治療は「手当て」の一つだと考えています。
患者さんの症状の緩和を目指して行う「手当て」は、そのような気持ちは患者さんにも伝わり、患者さんにとって、心地よさを生むのではないかと思う。

 

②欧米では日本よりも積極的にがん患者に対して鍼灸治療が行われている。
鍼灸治療の目的の中で最も欧米も含めて期待されているのは、痛みの緩和である。
近年のがん患者に対する鍼灸の効果の報告としては、

 

・2017年のサンアントニオ乳がん学会で発信元:米国がん学会(AACR)の鍼治療がアロマターゼ阻害薬に伴う関節痛を軽減したという高いエビデンスのものがあります。

 

アロマターゼ阻害薬の投与を受けた早期乳がんを有する閉経後女性患者の関節痛が、偽鍼治療を受けたか鍼治療を受けなかった患者と比べ、鍼治療を受けた患者では顕著に軽減したことが、12月5~9日に開催された2017年サンアントニオ乳がんシンポジウムで発表された第3相ランダム化試験(SWOG S1200試験)からのデータにより明らかとなった。
「アロマターゼ阻害薬は、ホルモン受容体陽性乳がんと診断された閉経後女性患者に最も多く用いられ、最も有効な治療法の一つです。しかし、その副作用のために治療の休止や完全な中止を余儀なくされる患者が多数います」とニューヨーク長老派教会ハーバート・アーヴィング総合がんセンター/コロンビア大学メディカルセンターの乳がんプログラムのリーダーであるDawn L. Hershman医師は述べた。「消耗性の関節痛やこわばりをはじめとするこれらの副作用を抑制する戦略を特定する必要があります」。

 

このような最新の報告が挙がってきています。
その他いろいろありますが、ここでは最新の報告を紹介しました。

 

③鍼灸診療ガイドラインと安全性について
診療ガイドラインとは、簡単に説明すると鍼灸の臨床研究から、このような症状に対してこのような方法で行うべきであると、鍼灸の診療についてまとめたものです。
下記に、がん診療ガイドラインの鍼に関する記載を、診療ガイドラインの名称、疾患・症状効果、エビデンスレベル、推奨の各項目別に示します(講演資料から抜粋)。

 

●がん診療ガイドラインにおける鍼治療に関する記載
①米国胸部疾患学会(American College of Chest Physicians)
補完統合医療肺がん診療ガイドライン)
・化学療法・放射線療法の嘔気・嘔吐 エビデンスレベル 推奨度 2B
・疼痛・末梢神経障害 エビデンスレベル 推奨度 2C

 

②統合腫瘍学会(The Society for Integrative Oncology)
統合腫瘍学診療ガイドライン
・疼痛あるいは化学療法や外科麻酔による胆気・嘔吐 エビデンスレベル 推奨度 1A
・放射線治療による口腔乾燥症 エビデンスレベル 推奨度 1B
・閉経後ホットフラッシュ エビデンスレベル 推奨度 1B

 

③厚生労働科学研究「鍼灸を含めた内因性鎮痛法の機序の解明およびがん緩和医療における臨床的適応に関する研究」
鍼によるがん治療の副作用の緩和エビデンスに基づく鍼灸ガイドライン
・血管運動障害(ホットフラッシュ) エビデンス 1b 推奨度 B
・嘔気・嘔吐(化学療法後の鍼通電) エビデンスレベル 1a 推奨度 A
・疲労倦怠感(化学療法後) エビデンスレベル 1b 推奨度 A

 

A:行うよう強く勧められる B:行うよう勧められる C:科学的根拠がないため推奨も否定も出来ない
1A:Strong recommendation, high-quality evidence
1B : Strong recommendation, moderate-quality evidence 2B: Weak recommendation. moderate-quality evidence
2C : Weak recommendation, low- or very low quality evidence
注)厚生労働科学研究のガイドラインについては推奨度がAおよびBの症状のみ表示した。

 

これは、あくまでもエビデンスをもとに示されたもので、これ以外の症状は効かないということを示したものではありません。
今の段階では、科学的にはこのようなことがわかっているということです。
ご参考にしてください。

 

安全性に関連する情報として、下記に米英の施設・グループでがん患者に鍼治療を行わないとしている条件・基準を、施設・団体等、条件・基準の項目にまとめて示します(講演資料から抜粋)。

 

●米英の施設・グループでがん患者に鍼治療を行わないとしている条件・基準
(米国)
ダナ・ファーバーがん研究所
1.絶対好中球数が500/μL未満
2.血小板数が25,000/μL未満
3.精神状態変化
4.臨床的に重要な心不整脈
5.その他の不安定な症状(個別に判断)

 

(英国)
ロイヤル・マースデンNHS財団トラストを含む幾つかのトラスト病院の要請を受けて作成されたガイドライン
1.鍼の禁忌
1)鍼治療を拒否する患者(例えば極度の針恐怖症)
2)重篤な凝固機能不全または自然に青あざが出来る患者
2.留置鍼の禁忌
1)心臓弁膜症の患者(亜急性細菌性心内膜炎のリスク)
2)好中球減少の患者(感染リスク)
3)脾臓摘出後の患者(感染リスク)
3.鍼通電の禁忌
1)植込み型除細動器を装着している患者
4.刺針を避けるべき部位
1)腫瘤または潰瘍
2)リンパ浮腫またはその傾向がある四肢
3)腋窩切開を行った患者の同側腕(浮腫やリンパ浮腫のリスク)
4)脊柱不安定領域(鍼による筋緊張緩和で脊髄圧迫のリスク)
5)人工器官(生理食塩水やシリコン漏出の恐れ)
6)脳神経外科手術後の頭蓋内欠損部
※筆者注:本文で解説した通り、患者側に刺針しても問題が生じなかったという論文があるため近年は議論もある。

 

まとめ
以上、山下仁先生の講演の内容をご紹介しました。
この内容をご覧いただき、現在のがん患者に対する鍼灸治療がどのように行われているのか、またどのように行うべきなのかを鍼灸師の立場からあるいは患者様の立場からの参考にしていただければと思います。

 

がんは老化病でもあることから、二人に一人が罹患する病気です。決して他人ごとではなく、身近な病気なのです。
イギリスドゥル博士は、「全ての癌の全ての原因を100とすると、まず食事が35%、喫煙は30%、感染症は10%、その他アルコールなど。」
これからすると、食事と喫煙と感染症のこの三つで全てのがんの全ての原因の四分の三が説明できることになる。
私たちもこのような環境の改善を図り、まずはできることから対策をとることが必要かと思います。

 

がんに罹患したときに、鍼灸師の立場から何ができるのか、私たち鍼灸師はそのような気持ちで臨床に取り組んでいかなければなりません。
がん患者さんが少しでも快適な生活ができるよう私たちも努力しなければならないと思っています。
今回は少し長くなりました。
ここまでとします。

 

 

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